モジュールで構成するDC‑DCシステムの設計手法
第2回: フィルタの設計
Tutorial by
Jonathan Siegers / プリンシパル アプリケーションエンジニア
Vamshi Domudala / アプリケーションエンジニア
前回のチュートリアル では、モジュールで構成する電源システムの設計が、性能、設計の自由度、開発スピードにおいて有利である点に注目し、後半でその設計プロセスの大まかな流れを確認しました。モジュールで構成するアプローチは優れていますが、電力供給ネットワーク (PDN) を完全な電源システムにするためには外付けの回路が必要です。チュートリアルの第2回では、PDNの最初の課題に対処します。スイッチングDC-DCモジュールの入力側と出力側のノイズフィルタです。
入力ノイズの原因
DC-DCコンバータのスイッチング動作と、PDN全体に分布する寄生回路素子により、フィルタでおさえるべき2種類のノイズ電流が発生します。コモンモードノイズとディファレンシャルモードノイズです。
コモンモードノイズは、コンバータ内部の高電圧スイッチングノードから発生し、寄生容量を介して、EMI測定の際のグランドに流れます。このノイズは、コンバータの正と負両方の入力端子から同じ位相で発生し、システムのグランドに流れ込みます。一方、コンバータのスイッチング動作によりディファレンシャルモードノイズが発生し、このノイズはコンバータの入力端子間にのみに流れます。
EMI の入力干渉問題と解決策
これらのノイズは、電源システム内で多くの問題を引き起こす可能性があります。図2の2つのDC-DCコンバータは、入力DC電源だけでなく、一般的にノイズの影響を受けやすい制御・通信システムも相互に接続しています。DC-DCコンバータから発生したノイズはPDN全体を循環し、システムに不安定な動作を引き起こし、電気的に接続された隣接するシステムの動作に悪影響を及ぼします。
入力フィルタがシステムに追加されると、スイッチングコンバータのノイズがフィルタとDC-DCコンバータの間だけを循環するようにバイパスされ、同じ入力電源に接続されたほかのシステムとの干渉が減少します。また、このフィルタは逆方向にも動作し、DC-DCコンバータが外部から受けるノイズの影響を低減します。
電源システムにフィルタを組み込む場合、アプリケーションによっては、様々な国際機関によって定められた、EMC(電磁両立性)基準に準拠する必要があります。また、業界やアプリケーションにより、基準が大きく異なる場合があります。例えば防衛アプリケーションと自動車業界とでは、基準が大幅に異なります。
ノイズを低減するためには、いくつかのディスクリート部品を使用して、コモンモードノイズ電流とディファレンシャルモードノイズ電流の両方を効果的に減衰させます。一般的にコモンモードノイズ対策は、コモンモードチョークを用いて、コモンモードの回路の直列インピーダンスを高くし、正・負の入力端子から流出するコンバータのコモンモード電流を減衰させます。コモンモードノイズをEMIグランドへ流し込むために、Yコンデンサをコモンモードチョークと対で配置して、電流経路を作ります。(図3参照)
ディファレンシャルモードノイズを減衰するための素子は、Xコンデンサとラインに直列に入れるインダクタです。これらの素子により、コンバータから流れ出すディファレンシャルモードノイズの電流経路のインピーダンスは高くなり、ノイズ電流をコンバータ直近に閉じ込める低インピーダンスの経路が構成されます。
ノイズ電流をグランドに流し込むときに、シグナルグランドとパワーグランドの接続を誤ると、電力部品から生じたノイズが制御部へ回り込みます。DC-DCコンバータから発生する高周波ノイズが、配線の寄生容量によって信号系に結合すると、小電力の制御信号は影響を受けて、動作が不安定になる可能性があります。シグナルグランドにパワー系の電流が流れるのを防ぐため、シグナルグランドとパワーグランドとの接続は一点のみにします。
フィルタのトポロジ
フィルタの構成はいくつかありますが、このチュートリアルでは、一般的な2次応答のフィルタについて解説します。まず、インダクタとコンデンサから成るシンプルなフィルタの特性は、図4のダンピングなしのLCフィルタで示したように、カットオフ周波数より高い周波数域で–40dB/dec の2次減衰の傾きとなります。ダンピングなしのLCフィルタは、コーナー周波数で共振するため、一般に適切なソリューションとは言えません。このフィルタ構成では適切なダンピングを行わなければ、共振周波数付近でノイズを増幅してしまいます。ダンピングするためにはいくつかの方法があります。まず、インダクタに抵抗素子を並列に接続した、簡易的な直列のダンピングを加えたフィルタです。コーナー周波数の減衰特性がすぐれていますが、フィルタの周波数特性にゼロ点が加わることで、高周波領域の減衰量が減るという弱点があります。
2番目の方法は、回路にダンピング用の抵抗素子とインダクタを追加する方法で、2次のフィルタの減衰特性を維持したまま共振周波数付近のダンピング特性を改善します。ただし、この方法ではコーナー周波数がわずかにシフトします。3つめの方法は、並列のR-Cダンピング回路を追加する方法で、フィルタのコーナー周波数付近のダンピング特性を大幅に改善することができます。
出力フィルタの設計
出力フィルタの設計は、まず負荷が許容できる出力電圧リップルの大きさを定義します。次に、負荷電流の変動(di/dtが大きい過渡現象を含む)を考慮します。変動の大きい負荷に給電するDC-DCシステムの場合は、DC-DCコンバータの出力フィルタの直列インダクタンスが、電源システムの負荷応答性能に最も影響を与えます。負荷のdi/dtの最大値が定義されている場合は、システムのインダクタの最大値を決めることができます。下の式で、負荷のdi/dtとそのときのインダクタ両端に許容される電圧降下の最大値(すなわち、負荷が動作する最低入力電圧までの電圧低下量)を用います。
次に、適切なインダクタを選択した後、リップル電圧値を負荷に対応するために必要な減衰量からフィルタのカットオフ周波数を決定します。これらの情報から、次の式を用いてコンデンサ容量を算出します。
構造と実装配置の検討
最新のDC-DCスイッチングコンバータは、非常に高い周波数で動作します。そのため、部品配置や構造に起因する寄生容量や規制インダクタンスにより、コンバータシステム内のフィルタ回路の性能は大きな影響を受けます。
基本的に、EMIフィルタは、コンバータ本体の近くに設置します。図5では、DC-DCコンバータの入力部の直近にフィルタ用のコンデンサが配置されています。コンバータから近いため、ノイズ電流は局所的に循環します。ノイズ電流が広い領域をめぐると、電流が流れるループが高周波のアンテナになり、回路の他の部分にノイズを拡散して、フィルタを設置しても意味がなくなります。したがって、直列に入れるフィルタ素子と、高周波電流をシャントするフィルタ素子は両方とも、可能な限りDC-DCコンバータの近くに置き、高い周波数や大きいdi/dtの電流が通るループのサイズを、できるだけ小さくします。
PCBのレイアウトも重要です。ノイズ電流を流す経路にも細心の注意を払い、ノイズ電流経路全体のインダクタンスと抵抗値を最小限に抑えます。高周波数電流がインピーダンスに流れて、大きなノイズ電圧が発生しないように注意します。
また、PCB上の銅箔プレーンの配置は、寄生容量によるカップリング効果でノイズがフィルタリング素子を迂回することのないよう注意する必要があります。例えば、フィルタのインダクタの両端の端子を接続する銅箔プレーンがお互いに近すぎると、寄生容量を介して高周波電流が、高インピーダンスのインダクタを迂回することになります。銅箔プレーン同士を離し、直列に繋がれた高インピーダンス素子周辺の寄生容量を最小限に抑えるのが、裁量の配置です。
コモンモードチョークにも同様の考え方を適用します。コモンモードチョークの巻線付近に配線禁止領域を作ることで、寄生容量ができないようにして、ノイズがフィルタ素子を迂回しないようにします。
フィルタ素子の性能は、環境やアプリケーション固有の条件によって大きく左右されます。例えば、クラス2強誘電率系セラミックコンデンサの実効容量値は、DCバイアス電圧によって大きく変動します。図6(左)は、1206サイズのMLCCの例です。DCバイアス電圧50Vのとき、実効静電容量は74%も減少しています。実行静電容量が低下することでフィルタのコーナー周波数が上昇するため、高い周波数帯の減衰効果が減少します。
動作温度も、実効静電容量に大きな影響を与える場合があります。図6(右)は、同じコンデンサの例です。定格温度の上限と下限で使用する場合、実効静電容量が最大20%減少することを示しています。DC-DCモジュールのフィルタを設計するときは、部品性能のばらつきを想定して、システムの動作範囲全体にわたって、その影響を考慮しなくてはなりません。
まとめ
入力フィルタを電源システムに取り付けると、電源システム全体の安定性に課題が生じます。次回のチュートリアル では、安定性の解析とデカップリングを取り上げます。
DC-DCチュートリアルシリーズ
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モジュールで構成するDC-DCシステムの設計手法 第3回:安定性解析とデカップリング
モジュールで構成するDC‑DCシステムの設計手法 第4回:安全と保護の機能
モジュールで構成するDC‑DCシステムの設計手法 第5回:負荷に関する考慮
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